
演劇ユニット丁丁『ハコ』上演にさきだち、戯曲の冒頭部分を公開しています。
『ハコ』加藤瑶未
(3月13日更新版)
*登場人物
A
B
女優
男優
とある部屋。扉、窓などの出入り口はない。箱のような部屋。
下手にテーブルと椅子が二脚置かれている。
1 現実
A、目覚める。
A ん・・・え?えっ?何ここ・・・どこ?・・・何だここは?・・・とりあえず出口・・・出口・・・出口ない、あれ?出口ない?えっ!出口ねーじゃん!ってことは・・・出られねーじゃん!おいおい、嘘だろ~、何でこんなことに・・・
A、ウロウロと歩き回る。
と、部屋の隅にいたBと目が合う。思わず静止。
B、すかさずAに近寄る。
A、後退りして尻餅をつく。
A うわうわうわ、何何何、やめてやめてやめて、うわーっ!
B しっ。
B、口に指を当て、もう片方の手をAにかざして制する。じっとAを見つめる。
B 君に聞きたいことがある。一つ、ここはどこ?二つ、君は誰?三つ、君はどこから来たの?四つ、どうやったらここから出られる?五つ、俺をここに閉じ込めた理由は?六つ、
A 多い多い多い。
B ここは、一体何なの?
A わかんない。
B え?
A 俺もわかんない。てか俺が聞きたい。何これ。何が起こってんの?
B 何だ、何だよ~・・・あ~あ、君も俺とおんなじだったなんて~、出る方法教えてもらうつもりだったのに・・・
A 同じ?ってことは、あんたもここに閉じ込められてるの?
B そうだよ。
A わけもわからず?
B そうそう。
A 一緒一緒!俺も!
B 本当に!?やっぱりそうなんだ!君も一緒なんだね!はぁ、俺もう本当心細くてぇ、泣いちゃうかと思った。あ~、なんか安心したわ~。これで一安心だ。
A 一安心?
B そうだ!俺たち協力しない?一緒にここから脱出しようよ!名付けて、密室脱出同盟。へへっ。
A やだよ。
B え?
A やだよ。
B え?・・・何で?俺たち、一緒じゃないの?
A やなもんはやだよ。誰もこっから出たいなんて言ってないだろ。
B え!?出たくないの!?
A そうだよ。じゃあ、折衷案でこうしない?俺たちは、密室生活同盟。この密室から脱出せず生活する。
B やだよ!全然折衷してない!
A 侵入した覚えがないならなら不法侵入にはならないよな。じゃあいいや。一安心だ。
B 一安心?
A (胡座をかいて座る)なー、テレビとかないの?スマホも無くなってんだけど。タバコもねーし!クソが!
B ・・・あのさ!これはさ、いわゆる拉致監禁だと思うんだよね!俺たちは誘拐されてるんだよ!
A へえ。そう。
B こんなところに留まってたら何されるか、何が起こるかもわかんないよ。
A 外に出たって何が起こるかわかんねーよ。事故に遭うかもしれないし、詐欺に遭うかもしれないし、ミサイルが降ってくるかもしれない。
B ここよりはマシでしょ!
A お前ここがミサイルシェルターでも同じことを言うのか?
B ここはミサイルシェルターじゃないから言うよ!こんな何にもないところで生活なんかできない。
A シャバなんて出たところでクソじゃねえか。それより、俺とあんたがここで出会ったこと、運命だと思わない?一緒に仲良く暮らそうよ。
B お、俺と?一緒?
A そう。二人で楽しくやろう。俺、あんたとならうまいこといきそうな気がするんだよねぇ。ね、いいでしょ?一緒に住もうよ。
B ええ~・・・って、ダメだよ!住むにしたって、ちゃんと住民票移さないと!てかここ都内?賃貸?家賃補助出るの?
A けっ、めんどくせーな。
B 君が出たくないのはわかった。じゃあさ、もう出なくてもいいから、俺がこっから出るのに協力だけしてくれない?後は君の好きにしていいから。
A 何で俺がお前の意見聞き入れて譲歩してやらなきゃならないの?
B 頼むよ~、そこを何とか。
A 頼むとして、もっと取引先に言うみたいに言ってくれる?
B (正座)私事で大変恐縮ですが、この謎の密室から脱出する手助けをお願いできませんでしょうか。
A 頭が高い。
B (頭を下げる)この通りです!どうか、重ねてお願い申し上げ奉ります!
A 必死さが足りない。
B (五体投地)よろしくお願いしまぁす!
A ・・・はあ。しょうがないなぁ。そこまで言うなら?やってやらんこともないと考えといてやってもいいよ。
女優と男優、スタンバイ。
B ありがとう!本当にありがとう!俺ババちゃん!ババちゃんって呼んで、遠慮せずに!君は?
A 俺は、(俳優たちに気づいて)え?誰?
2 劇・学校
とある高校の教室。授業が終わるところ。
男優(トモダチ) きりーつ。れーい。
女優・男優(オンナ・トモダチ) あざしたー。
男優(トモダチ)、弁当箱を取り出す。
女優(オンナ)、弁当箱を出し、椅子を男優(トモダチ)側に向ける。
男優(トモダチ) やっと昼休みだ~。いただきまーす。
女優(オンナ) いただきまーす。
女優(オンナ)と男優(トモダチ)、昼食。
男優(トモダチ) ね、ちょっと。
女優(オンナ) うん?
男優(トモダチ) また恋人と別れたって?累計何人目?
女優(オンナ) あー、もう好きじゃないのに、あのまま一緒にいたらお互い時間の無駄になっちゃうし、私はそれよりもっと色んな経験がしたいと思って。
男優(トモダチ) 経験ね。言うてもう次がおありな訳でしょ?
女優(オンナ) 聞いて聞いて。それこそこの前別れ話したんだけどさぁ、彼ね、ついこの間も俺のこと好きだっていってくれたのに~、って言ってたの!
男優(トモダチ) うん?
女優(オンナ) だから、私が彼のこと好きだって思ってると思っててくれてたみたいなの!
男優(トモダチ) え、ん?つまり?
女優(オンナ) 正直私、結構前からもういいかな~って思ってたんだけど、それに全然気づいてなかったみたいで。ね、これってさ、私、結構実力ついてきたってことかな?
男優(トモダチ) ああ~・・・そのさ、何でも経験って言って演技に還元するって考え、やめた方がいいんじゃない?演劇バカもほどほどにしないと、刺されるよ、そのうち。
女優(オンナ) だってウチ演劇部ないし・・・
男優(トモダチ) 大学でサークル入れば?
女優(オンナ) ・・・私ね、まだ、誰にも言ったことなかったんだけど・・・就職するの。
男優(トモダチ) え、マジで?どこ?
女優(オンナ) 東京の。
男優(トモダチ) 東京!?
女優(オンナ) 劇団。
男優(トモダチ) ええ・・・
女優(オンナ) まだ決まってないんだけどね。オーディション受けるんだ。私、女優になりたいの。女優になって、色んな役演じられるようになるために、色んな人にあって色んな経験がしたい。今からできることって、それくらいだから。・・・親に言ってみたら、めっちゃ文句言われたけど・・・でも私絶対なるよ!東京で、女優になって、舞台に立つの!
男優(トモダチ) ・・・それが、あんたのやりたいことなら、いいんじゃない?やれば・・・
学校の場面終わり。
女優と男優、はける。
3 現実
B 君、名前、エ・ダレって言うんだね。かっこいい~。じゃあ俺も遠慮せずに、エーちゃんって呼ぶね。何はともあれ、協力してくれてありがとう!エーちゃん!
A え?
B そう、エーちゃん。これから一緒に頑張ろうね!よろしく!エーちゃん!